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蟻

蟻通神社と
紀貫之公

当宮の御祭神がはじめて文献に登場されるのは、平安朝前期の歌人である紀貫之の家集、『貫之集』(10世紀中葉成立)です。そこには、「蟻通しの神」と貫之が織りなす説話と和歌が記されています。また、清少納言の随筆『枕草子』にも「蟻通の明神」説話が描かれており、少なくとも平安時代以降、蟻通しの神さまは広く世に知られる御存在であったことがわかります。
なかでも、当宮と紀貫之公の伝承を最もくわしく記す書物が、南北朝時代に成立した説話集である『神道集(しんとうしゅう)』(全10巻50話)です。『神道集』には、全国の著名神社約40社の縁起などが収録され、その第7巻に紀伊国田辺の「蟻通明神事(ありとおしみょうじんのこと)」が記されております。

『 神 道 集 』
蟻 通 明 神 事〈要 約〉

紀貫之が紀伊国に補任されたとき、馬に乗ったまま神社の前を通りすぎようとすると、馬が立ちすくんで全く動かなくなった。
下乗した貫之に、里人がいう。
「この社には、蟻通しの神さまがお祀りされています。お供えをお上げなさいませ。」
これを聞いた貫之は昔の蟻通しの故事を思い出し、神に献じる歌を詠んだ。

七わたに 曲れる玉の ほそ緒をば 蟻通しきと 誰か知らまし【七曲りに曲りくねった玉の穴に、蟻を用いて緒を通したのでそれから蟻通明神というが、今では誰がそれを知っているでしょう】

そうして神前で奉幣したあと、神にもう一首の歌を捧げた。

かきくもり あさせもしらぬ 大空に 蟻通しとは 思ふべしとは【大空が一面に曇って、どこが浅瀬ともわからぬ暗闇で星がどの辺りにある〔蟻通=有りと星〕ともわかりません】

すると、馬は身震いして再び立ち上がることができた。

(貴志正造 訳改)