日本人と神道

国内で行われたある世論調査によると、「あなたの宗教は何ですか?」という問いに、神道と答えた人はわずか4%だったそうです。お正月の初詣に訪れる参拝者数は、毎年約9,000万人(日本の総人口は約1億2,000万人)という統計もあるのに、この世論調査をみると神道を自覚的に信仰している人は、日本人のなかにたった4%しかいないということがわかります。正直、一神職としてはかなり寂しい数字です。
しかし、あまりその数字に囚われる必要はないのかもしれません。なぜなら神道は、古くから日本人の生活に深く強く根をおろしているため、自らの所作に神道の宗教的行為が含まれていても、われわれはそれに気づいていないだけで、実際にはたくさんの人々が神道的な生活を送っているからです。
先ほど初詣の例をあげましたが、他にも日常生活で神道や神社にかかわる事例はたくさんあります。たとえば、赤ちゃんが生まれて神社にお参りする初宮詣(お宮まいり)や子供の成長をお祈りする七五三詣、神前結婚式や厄年のお祓いなど意外と多く人生の節目で神道にかかわっています。また、家の中をみても神棚に神社の御札をお祀りしている家庭はたくさんおられます。戦後の急激な家庭環境や住宅環境の変化、価値観の多様化などの影響を受けて、現代社会ではこうした習慣が薄らいできている面もありますが、神道的な信仰は今もなお違和感なくわれわれの生活に深く根差したものといえるでしょう。
では、神道の存在を感じにくいのはなぜなのでしょう。ひとつには神道が、信仰する人々の組織化という面で緩やかな宗教であることがあげられます。神道では、神社とかかわりのある土地に住んでいる人を、無条件にその神社の氏子であると考えます。一方、氏子さんは神社のお祭りなどを通して神社への所属意識をもってはいますが、仏教にみられるような檀家制度による各寺院への強い所属意識や、キリスト教のように入信する際に教会で行われる洗礼のような儀式がないため、他宗教にくらべると自分が神道に属しているという意識が低いという特徴があります。神道は、歴史的に日本人の生活と一体化して継承されてきた信仰ですから、特別な布教や組織化をする必要がなかったことも影響しているでしょう。
さらにいえば、多くの人は神社や家庭でおこなわれる神道儀礼を宗教的行為としてではなく、伝統的な習俗や慣習として受けとめています。神道が日本文化そのものであるがゆえに、われわれはそれを宗教であると認識しづらくなっているのです。外国人からみれば、日本人が神社で神さまにお参りする姿などは明らかな宗教行為として映るでしょう。