民族宗教と世界宗教

宗教の発生は、人類の誕生時までさかのぼります。旧石器時代のネアンデルタール人やクロマニヨン人には死者の埋葬の仕方に宗教性がみられ、彼らがすでに死後の世界についての観念を持っていたことがわかっています。以来、人類文明の発達にともなって、世界各地で宗教的観念がより明確にあらわれるようになりました。古代から現代にいたるまで、どのような地域や民族であっても、そこには何らかの宗教的信仰が存在しています。
宗教を分類する際に、世界宗教と民族宗教という概念がよく用いられます。世界宗教とは、特定の民族や地域、言語などに限定されない文字通り世界中に広がりをもった宗教のことをいいます。世界三大宗教といわれる、キリスト教・イスラーム・仏教などがこれにあたります。これらの世界宗教は創唱宗教(そうしょうしゅうきょう)とも呼ばれ、仏教における釈迦やキリスト教におけるイエスのような創始者(教祖)によって教義が唱えられ、確固とした教典をもっているという特徴があります。また、世界宗教は自らの普遍的・超越的な価値観を世俗の価値観よりも上位に置き、「各個人の救済を重視する自覚的な信仰」という側面があります。
一方で民族宗教は、その名の通り特定の民族や地域に深く結びついて生まれた宗教のことをいいます。主なものとしては、わが国の神道やインドにおけるヒンドゥ教などがあげられます。民族宗教は、民族や氏族などの血縁的なつながりや、一定の土地(地域)に対する地縁的なつながりが強く、その民族の生活や文化の一部として自然発生的に生まれてきた宗教です(自然発生的な宗教を「自然宗教」ともいいます)。そのため、特定の教祖や教典をもたないことも多く、その役割も個人の救済というより、「民族の伝統文化や地域共同体の安定化」に重点をおいているといえるでしょう。
このように様々な宗教を、とりあえず「世界宗教」と「民族宗教」に分類することができます。しかし、歴史的にみれば両者は世界各地で接触することで、お互いに影響を及ぼし合いながら今日に至っています。また、それぞれの宗教は多面性を有し、一概にすべての宗教がこの枠組みにあてはまるわけではありません。その意味で両者を全く違うものとして扱うことは、不適切といえるでしょう。わが国固有の民族宗教である神道においても、「共存共栄」や「自然環境との調和」などの神道の理念のなかに、広く人類に共通する真理を見出すことができます。