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神道の他界観

 神道と他宗教を比較したときに、よく指摘されるのが「他界観」の違いです。他界とは、人間が生きている現実の世界(現世)とは異なる世界、あるいは人間の死後の世界(来世・あの世)を意味しますから、他界観とは現世とは異なる超自然的な世界や死後の世界に対する考え方、見方と定義できます。これまで、人は死んだらどこへ行くのか、どうなってしまうのかという問いは、人類の誕生とともに根源的な問題として考えられてきました。そして、その問いに答えようとしてきたのが多くの宗教であり、それぞれの宗教によって独自の他界観が描かれました。代表的なものに、理想的な世界である「天国」と、苦しみに満ちた恐ろしい「地獄」という、二つの世界が存在するという考え方があります。

 たとえば、キリスト教やイスラームにおける他界観をみると、死後の世界には天国と地獄という二つの世界が示されます。また、前者とは少し異なるものの、仏教においても極楽浄土や地獄道といった観念がみとめられます。これらに共通するのは、生前の人間の行動によって、死後にどの世界へ行くかが決まると考えられていることです。すなわち、宗教上の信仰を守り、戒律に基づいた生活を送れば天国に行くことができ、逆にこれらを破れば地獄に()ちると信じられているのです。そのため、これらの宗教では死後の世界である「来世」にこそ理想の世界があり、真実の世界があると考える傾向が強くなります。

 それでは、神道の他界観はどうなっているのでしょうか。はっきりいってしまえば、神道に統一的な他界観はありません。『古事記』・『日本書紀』に記された神話をみると、死者が向かう国として「黄泉(よみの)(くに)」が描かれますが、その他にも「(ねの)(くに)」や「常世(とこよの)(くに)」などがでてきますし、生前の行動によって死後に行く世界が決まるという考え方もありません。過去には、江戸時代の国学者が死後の世界を研究した事例はあるものの、総じて神道では死後の世界について、語られることが少なかったといえるでしょう。つまりそれは、神道が来世をそれほど重要視していなかったことを意味します。

 神道が大切にしているのは何か。それは、われわれが生きている「今」なのです。神道では、来世よりも現世のことを中心に考えます。そのことを端的にあらわしているのが、「中今(なかいま)」という言葉です。この語は平安初期の歴史書『続日本(しょくにほん)()』に初めてみえ、後には神道の時代観や歴史観をしめす重要な概念として用いられるようになりました。永遠なる過去と未来の中間にある「今(現在)」こそ、最も価値がある、という考え方です。一人ひとりが今という時間を精一杯に生きること、人生を価値あるものとして幸せになることを重要視します。また、そうすることで社会全体も発展し、現世においてより良い世界が実現していくと考えるのです。

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